誤学習とは?発達障害の子の困った行動の例と直し方3つ

指示が通らない子の誤学習の例と3つの直し方

「決めるのは俺」

教室でそんな言葉を聞いて、返事に詰まったことはありませんか。

指示を出すたびに交渉が始まる。

強い言葉が出てきて、こちらが折れてしまう。

そんな日が続くと、あなたのほうが消耗します。

こうした行動は、その子の性格のせいではありません。

これまでのやりとりの中で、「こうすれば通る」と覚えてしまった結果です。

現場では、こうした覚え方を「誤学習」と呼びます。

この記事では、誤学習の例3つと、場面ごとの直し方をまとめました。

あわせて、未学習との違い、決定権の学習がなぜ必要なのか、家庭への伝え方もお伝えします。

目次

指示が通る教室は、ここまで変えられる

指示が通る教室を目指す特別支援学級の先生と子どもたち

先に、目指す姿を書いておきます。

  • 「これは自分が決めること」「これは先生が決めること」を、子どもが自分の口で言える
  • 強い言葉が出たときに、本人が「今のはちくちく言葉だった」と気づける
  • 授業の時間は、いすに座って話を聞ける日が増えていく

どれも、一週間でできることではありません。

けれど、やるべきことはあります。

決める人を分ける。言葉を置き換える。座る理由を本人の言葉にする。

この3つです。

ぷーた

どなって言うことを聞かせても、そのときだけなんですよね。私も何度も通った道です。

誤学習とは?発達障害の子に起きる「困った行動」の例

誤学習による困った行動の例を表す子ども

現場では、経験の中でまちがったルールを覚えてしまうことを誤学習と呼びます。

「泣けば通る」「強く言えば大人が折れる」といった覚え方です。

発達障害のある子だけに起きることではありません。

ただ、見通しの立ちにくさや言葉の受け取り方の違いから、発達障害のある子には起きやすい場面があります。

ここでは、私がよく出会ってきた3つを挙げます。

例1 決定権の誤学習(「決めるのは俺」)

本人の中で、決める人が自分だけになっている状態です。
「次は体育がいい」「今日は勉強しない」と、時間割まで自分で決めようとします。
止めに入ると、もっと強い言葉が返ってきます。

例2 言葉の誤学習(強い言葉を使えば通る)

強い言葉が、まわりを動かす道具になっている状態です。
「殺すぞ」「うざい」が口から出るのには、理由があります。
使えばまわりが黙るので、本人にとっては効く道具のままなのです。

例3 場所の誤学習(この教室では立ってもよい)

ほかの教室では座れるのに、自分のクラスでは立ち歩く。
その姿を見ると、あなたは「なめられている」と感じやすいものです。
けれど本人の中では、「ここでは立ってもよい」というルールができているだけです。

誤学習が起きる原因|未学習との違い

誤学習と未学習の違いを考える先生

対応を決める前に、未学習と分けておきます。
ここを取り違えると、手立てが逆になります。

未学習誤学習
何が起きているかやり方をまだ知らないまちがったやり方を覚えている
子どもの受け取り方どうすればいいか分からないこれでうまくいっている
先にすることやり方を教える通らないことを伝えて、別のやり方を渡す

未学習の子に「やめなさい」と言っても、代わりが分からないので止まりません。

誤学習の子に新しいやり方だけを教えても、前のやり方のほうが早いので戻ります。

では、なぜ誤学習が起きるのか。
いちばん大きいのは、大人が折れた経験が積み重なることです。

強く言われて、こちらが引く。
泣かれて、要求をのむ。
その一回ごとに、「この方法は効く」という学習が進みます。

あなたが厳しくなかったから、ではありません。
目の前の一回を収めるための判断が、結果として別のことを教えてしまうのです。

ここで失敗しました|私が折れた日

子どもの要求に折れてしまった日を振り返る先生

「今日は勉強しない」と言われて、私が引いたことがあります。

その時間は、たしかに静かに終わりました。

けれど次の日から、同じ言葉が毎時間出るようになりました。

あのとき収まったのは、その1時間だけだったのです。

決定権の学習が、特別支援学級で必要とされる理由

大人が決めることと子どもが選べることを分ける決定権の学習

3つの例のうち、いちばん根が深いのが決定権です。
ここだけ、もう少し解説させてください。

決めてよい範囲は、生まれつき分かっているものではありません。

大人とのやりとりを何度も重ねながら、少しずつ覚えていきます。

私が22年間、子どもと関わってきて感じるのは、この経験が足りないまま高学年になる子がいるということです。

自分で決められない。
決めたあとを引き受けられない。
こうした姿は、やる気の問題として片づけられがちです。

けれど実際は、決めてよい範囲を教わる機会が少なかっただけ、ということが多くありました。

特別支援学級では、その子に合わせて活動や課題を選べる場面が、通常の学級より多くあります。
選べる幅が広いぶん、「ここからは大人が決める」という線がはっきりしていないと、子どもの側も迷います。

ここで大事なのは、何でも選ばせることではありません。枠は大人が決めて、その中で子どもが選ぶ。
この形です。

やること自体は動かしません。
その中に、選べる場所を残しておく。
この積み重ねが、決定権の学習です。

逆に、この線引きがあいまいなまま「自由にしていいよ」とだけ渡されると、子どもは何を基準にすればいいのか分からなくなります。

指示が通らない状態は、そこから始まっていることが少なくありません。どこに線を引くかは、このあとの章で具体的に並べます。

誤学習の直し方|場面別の対応3つ

誤学習の場面別の直し方3つ

3つとも、順番は同じです。
まず、今のやり方が通らないことを伝えます。
そのうえで、別のやり方を渡します。

決定権|決めてよいことから先に渡す

取り上げるところから始めると、ぶつかりやすくなります。
先に、子どもが決めてよいことを渡してください。
そのうえで、大人が決めることを並べます。

子どもが決めてよいこと
・休み時間に何をして遊ぶか
・給食のおかわりをするかどうか
大人が決めること
・授業をするかしないか
・次の時間に何の勉強をするか

線を引くときは、気持ちと行動を分けて受けとめます。
「やりたくないよね」と気もちには共感する。
「でも、授業はやるよ」と行動は動かさない。
この2つを同時に渡すと、押しつけになりません。

線を引いただけでは、本人は納得しません。
だから、「大人の言うことを聞くと、いいことがある」と本人が実感できる場面を用意します。
私は、習い事の話をよく使います。

習い事をしている子には、こう聞きます。
「先生の言うとおりに練習した日と、好きなことだけした日と、どっちがうまくなった」
たいていは前者だと、本人が答えます。

自分のしたいことだけでは上達しないと、経験で知っているからです。

そこから、「勉強も同じだよ」と授業の話に戻します。

家庭にも、同じ分け方を伝えます。

家庭に伝えるときの言い方
・「今日のおやつをドーナツとポテチのどちらにするかは、あなたが決めていいよ」
・「でも、夕ごはんの献立を決めるのはおうちの人だよ」

家庭で子どもの要求が通り続けていると、学校での線引きも伝わりにくくなります。
大人同士が同じルールを持っていると、通りやすくなります。

保護者にお願いするのは、子どもに全部を任せることではありません。
「これはあなたが決めていいこと」「これはおうちの人が決めること」を、落ち着いて分けて伝えてもらう。
それだけで十分です。

今すぐ子どもを楽にするための線引きではなく、大人になったときに自分で決められるようになるための土台です。
そう添えると、家庭にも届きやすくなります。

言葉|ちくちく言葉とふわふわ言葉に分ける

言葉を取り上げるのではなく、名前をつけて分けます。

相手が痛い気もちになる言葉が、ちくちく言葉。
相手が受け取りやすい言い方が、ふわふわ言葉
です。

ふわふわ言葉の例は「ありがとう」「いっしょにやろう」「だいじょうぶ」。
そのうえで、言いかえの形を用意します。

強い言葉が出そうな場面で、代わりに何と言えばいいのか。

そこまで渡さないと、言葉は減りにくいものです。

  • 順番を抜かされた → 「順番を待ってほしい」
  • 話しかけられたくない → 「今はひとりにして」
  • やり方が分からない → 「手伝ってください」

出てしまったときは、「それはちくちく言葉だね」と短く返します。

説教にしないのがコツです。

本人が「今のはちくちくだった」と気づけるようになると、言い直しが出てきます。

授業を座って受ける|理由を本人に聞く

ほかの教室では座れるのなら、そこに答えがあります。
「あちらの教室では、どうして座れるの」と聞いてみてください。
責める言い方をしなければ、本人なりの理由が出てきます。

体が動いてしまう子には、教室の後ろに動ける場所を作っておきます。

動ける場所があると、かえって席に戻ってきやすくなることがあります。

そして、座るとどんな得があるのかを、本人の言葉で引き出します。

「勉強が分かる」「なりたい仕事に近づく」と出てきたら、それをマンガや紙芝居にします。
文字だけよりも、ずっと入りやすくなります。

時間は、子どもと相談して決めます。
45分の授業なら、「5分は動いてよい。そのかわり40分は座る」といった形です。

先に大人が決めてしまうと、約束になりません。

座るところまでいかず、教室から出て行ってしまう子もいます。
その場合は、止め方より先に決めておきたい約束があります。

おまけ|荒れやすい場面を記録する

これは、3つのどれにも重なります。

  • 給食の前は、おなかがすいて怒りっぽい
  • 雨の日は、濡れるのが嫌で朝から荒れる

こんなふうに、条件を書き出していきます。
条件が見えると、保護者に頼めることが具体的になります。

「朝ごはんを少し増やしてもらえませんか」とお願いできる。
根拠のある頼み方は、伝わり方が変わります。

3つの対応は、どれも同じ届け方ができます。

その場面でどうふるまえばいいかを、本人に分かる言葉で短く書いて渡す。

それを書いたものが、ソーシャルストーリーです。
例文3つと作り方の5ステップは、次の記事にまとめています。

誤学習のよくある質問

誤学習と未学習の違いや家庭への伝え方についての質問
誤学習と未学習の違いは何ですか

やり方を知らないのが未学習、まちがったやり方を覚えているのが誤学習です。未学習の子には、まずやり方を教えます。誤学習の子には、今のやり方が通らないことを伝えてから、別のやり方を渡します。

大人が折れると、どうなりますか

「この方法は効く」という学習が進みます。一度で決まるわけではありませんが、回数が重なるほど戻しにくくなります。折れた日があっても取り返せます。次の場面で、決める人を分けるところからやり直してください。

家庭にはどう伝えればいいですか

「家でも同じようにしてください」だけでは伝わりません。決めてよいことと、大人が決めることを、具体的な場面で並べて渡します。おやつと夕ごはんの献立のような、家の中の例で話すと入りやすくなります。

学年の途中からでも間に合いますか

遅すぎるということはありません。ただ、担任ひとりで抱えると続きません。学年の先生や支援員の方と、決める人の線引きだけは先にそろえておいてください。

わがままとの違いは何ですか

わがままに見える行動の中には、決めてよい範囲を整理して渡されていないだけ、という場面があります。私が出会ってきた中にも、そうした子が何人もいました。嫌なことはやらない、困ったら大人が何とかしてくれる。そう覚えているなら、それは誤学習です。責める前に、決める人の線引きから見直してみてください。

誤学習のまとめ

誤学習を直すために決める人を分けるというまとめ

誤学習は、その子の性格の問題ではありません。

「こうすれば通る」と覚えてしまっただけです。

だから、やることもはっきりしています。
決める人を分ける。
言葉を置き換える。
座る理由を、本人の言葉にする。

決定権でいえば、選ばせること自体が目的ではありません。
大事なのは、選べることと選べないことを、同じ線で示し続けることです。

明日、どれか1つだけ試してみてください。

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