特別支援学級の授業は、子どもたちの表情やその日の調子に大きく左右されます。同じ学年でも理解の進み方が違い、思いがけない不安や疲れが出ることもあります。そんな中で「どうしたら安心して学べる時間がつくれるのか」と悩む先生は少なくありません。
この記事では、授業づくりの基礎から教科別、困り対応、時短までを「今日から使える実践形式」でまとめました。
コツさえつかめば、授業はもっとシンプルで優しいものになります。明日の授業が少しでも落ち着き、子どもが「できた」と感じられる時間になるように、実践的なポイントを丁寧に紹介します。
特別支援学級の授業づくりが難しい理由

特別支援学級の授業づくりは、通常学級の進め方がそのまま使えないことが多くあります。理解の差が大きく、学年差もあるため、「授業に入るまでの準備」がとても重要になるからです。
まず前提として読んでおきたい記事はこちらです。
一人ひとりの理解度や得意・苦手が大きく違う
子どもによって読み・書き・数の理解が大きく違います。同じ教材を同じペースで扱うのが難しい場面が多くあります。
学年差があり、同じ教材が使いにくい
複数学年が在籍している場合、「テーマは共通、課題は個別」という形が効果的です。
授業以前に「安心」「見通し」が必要
“今から何をするのか”という見通しがないと、不安を感じる子が増えます。見通しづくりはこちらの記事が参考になります。
授業づくりの基本原則

授業が落ち着くクラスには、必ず共通する「土台」があります。それは、子どもたちが安心して学べる環境が整い、授業の流れがわかりやすく、無理のない課題設定がされていることです。特別支援学級では、学力・得意・苦手・気持ちの動きが一人ひとり大きく異なるため、この土台づくりが特に重要になります。
授業づくりの基本は、難しいテクニックではありません。
子どもが「できた」と感じられる瞬間をつくり、その積み重ねを支える仕組みを整えることです。そのためには、環境の工夫、教材の調整、活動の順番、声かけのタイミングなど、授業に入る前の“準備”が効果を大きく左右します。
また、特別支援の授業は子どものその日の状態に影響されやすいため、予定通り進まないこともしばしばあります。だからこそ、柔らかく軌道修正しながら進められる「見通し」と「逃げ場(選べる活動や短い休憩)」が欠かせません。
授業づくりの基本原則は、
1. 安心できる環境
2. わかりやすい流れ
3. 小さな成功体験の積み上げ
この3つを軸に考えるだけで、授業は驚くほど安定します。
子どもの実態把握が授業の質を決める
読み書き・数・集中・情緒・生活リズムを丁寧に見ることが授業の土台になります。行動面の理解には以下の記事が役立ちます。
視覚的にわかる仕組みを整える
絵カード、授業の流れ、ワークシートの構造化など、視覚支援は授業の入りやすさを高めます。
スモールステップで成功体験を積ませる
「この部分だけできればOK」という設定が、授業の安定につながります。
環境調整で集中しやすい状態をつくる
教室環境の工夫は授業の安定を支える重要な要素です。
教科別・指導のポイント(国語・算数・生活・自立活動)

特別支援学級では、同じ「1時間の授業」でも、子どもによって得意・苦手の差が大きく、学習の入り方もまったく違います。だからこそ、教科ごとに押さえるべきポイントを明確にし、子どもの「今の力」に合わせて調整することが大切です。
国語では「読む」「書く」「話す」「聞く」のどの力を伸ばしたいのかをはっきりさせることで、活動が選びやすくなります。算数では、抽象的な考え方が難しい場合が多いため、具体物や視覚的な手がかりが欠かせません。生活科と自立活動では、学習そのものが子どもの生活に直結するため、日常の行動や経験と結びつけることで理解が深まります。
大切なのは、教科を“無理に進める”のではなく、
「いまの子どもが入れる形に授業を整える」
「小さな成功を積み重ねる」
という視点です。
この記事では、国語・算数・生活・自立活動の4つの教科(領域)について、明日の授業でそのまま使える具体的な工夫を丁寧に紹介します。それぞれの子どもにとって学びやすい形を見つけるためのヒントとしてご活用ください。
国語の指導ポイント
国語は「読む・書く・話す・聞く」の力を、小さなステップで積み上げることが大切です。特別支援学級では一斉に同じ活動をすることが難しいため、子どもの得意から授業に入ると安定しやすくなります。
- 読む
絵カード、音声読み上げ、短い文章からスタートすると入りやすいです。漢字は「意味がイメージできるもの」から始めると理解が深まります。 - 書く
なぞり書きだけでなく、書く前の“準備運動(指のストレッチ・空書き)”を取り入れると定着しやすくなります。書く量は思い切って減らし、成功体験が積み重なるよう調整します。 - 話す・聞く
「今日は何を伝えてほしいか」を明確にし、話す順番を絵カードで示すと安心して取り組めます。聞く場面では、話が長くなる前に区切りながら進めると集中が続きます。
行の区切り、振り仮名、絵カードなどの補助で負担を軽減できます。
国語|書く量は必要最小限でよい
国語|語彙を増やすには絵と言葉の連動が有効
算数の指導ポイント
算数は、抽象的な概念を理解するのが難しい子どもが多いため、まずは「目に見える形」で学ぶことが基本になります。
- 数の理解
100玉そろばん、ブロック、マグネットなど“触って確かめられるもの”が有効です。数を言うだけでなく「同じ数を集める」「並べる」などの操作を伴わせると理解が深まります。 - 計算
筆算や暗算に進む前に、「なぜその答えになるのか」を具体物で示すことで定着します。できた問題はすぐ褒めて次へ進み、苦手な問題は量を減らして負担を調整します。 - 文章題
文章を読むことが難しい場合は、絵図化・語句の置き換え・キーワードの色分けが有効です。
「何を聞かれているのか?」だけを取り出して一緒に確認してから取り組みます。

生活科の指導ポイント
生活科は、日常生活や経験と結びつけて学べるため、特別支援の子どもたちが入りやすい教科です。
- 身近な活動とつなげる:
買いものごっこ、季節の観察、身の回りの整理整頓など“生活でよく使う行動”を授業に落とし込むと定着します。 - 体験中心の授業:
実際に触れる、動く、やってみる活動が理解を支えます。説明は短く、活動量を多めに設定すると集中が続きます。 - 視覚支援:
写真・イラスト・手順カードを使うと、見通しがよくなり安心して取り組めます。
特に「片づけ」「準備」「振り返り」の3場面で視覚支援が効果的です。
生活|生活リズム・情緒に合わせて調整する
自立活動の指導ポイント
自立活動は、その子の「生きる力」に直結する学びであり、特別支援学級の中心となる領域です。焦らず、小さなステップで積み上げることが大切です。
- 身体の動き
姿勢保持、力の加減、手指の使い方などを遊びの中で取り入れると自然に力が伸びます。 - 人との関わり:
役割をもって活動に参加したり、安心できる相手と一緒に取り組むことで成功しやすくなります。「ありがとう」「お願いします」など短いフレーズを共有するだけでも十分です。 - 気持ちのコントロール:
気持ちの揺れは珍しくありません。クールダウンスペース、気持ちカード、深呼吸など、落ち着くための選択肢を授業内に必ず用意しておきます。 - 学習への入り方:
短い集中 → 小休憩 → 成功体験 → 次の課題
この流れを意識すると、無理なく授業に戻ることができます。

自立活動|本時のめあては行動レベルで表す

45分授業の基本構成(型)

特別支援学級の授業は、子どもの調子に左右されやすいため、授業の「流れ」がはっきりしているほど安心して取り組めます。ここでは、多くの子どもに合う基本の型を紹介します。
① 導入(5分)|気持ちを整えて“授業モード”に切り替える時間
導入の目的は、いきなり課題に入るのではなく、
授業に参加する準備を整えること です。
【ポイント】
・今日やることを短く伝える(1文でOK)
・絵カードや手順カードを見せて、見通しを共有
・短い活動(じゃんけん、拍手ゲーム、深呼吸など)で集中にスイッチを入れる
導入で「入れた」かどうかが、残り40分の安定を大きく左右します。
② 主活動(15〜20分)|一番力を伸ばしたい部分
子どもがもっとも集中できる時間帯です。
長すぎると崩れやすいので、15〜20分程度が最適 です。
【ポイント】
・活動のステップを3つ以内にする
・モデル(見本)を先に見せる
・できたところで必ず肯定の声かけ
・困りが出そうな場面は事前に選択肢を用意
主活動は「量より質」。
“できた”を1つ積み上げること が目的です。
③ 個別対応・アレンジ(10〜15分)|学年差・理解差を吸収する時間
特別支援学級では、同じ内容を全員に行うのが難しい場合が多いため、授業の後半に 調整できる時間 を必ず入れます。
【ポイント】
・できている子には少し発展した課題を出す
・難しそうな子には量を減らす、手順を簡単にする
・席を離れたくなる子には短いミッション形式で戻りやすくする
この時間があることで、
「できない子が取り残される」「できる子が飽きる」を防ぎ、クラスの安定が続きます。
④ 振り返り(5分)|成功体験を“言葉”にして残す時間
特別支援学級で特に大切なのが振り返りです。
成功の記憶は「言葉にすると定着」します。
【ポイント】
・今日できたことを1つだけ言葉にする
・絵カードから選ぶ方式でもOK
・教師の言葉で短くまとめてあげると自信につながる
振り返りの積み重ねが、「授業が好き」「学ぶのが好き」につながります。
⑤ 片づけ・次への切り替え(3〜5分)|安心して授業を終える準備
視覚的な手順カード(片づけ→席につく→終わりのあいさつ)を使うと、終わりの混乱が起きにくくなります。
【ポイント】
・片づける物を写真で示す
・手順を1つずつ区切って提示
・終わりの合図はいつも同じにする
授業の終わりが整うと、次の授業への入り方までスムーズになります。
この型が特別支援学級で“最強”な理由
- 学年差・理解差が吸収できる構造になる
- 「導入・振り返り」で気持ちが整い、崩れにくい
- ステップが少ないため見通しが立つ
- 45分の中に“成功体験”が必ず入る
結果として、子どもも教師も負担が大きく下がり、授業が安定します。
授業の流れ・型が関連する記事
学年差の授業を安定させるには「授業の型」が必須のため、もっとも関連性が高いです。

学年差に応じた授業づくり

特別支援学級では、1つの教室に1年生から6年生までが混在することも珍しくありません。
発達段階も理解の深さも大きく違うため、同じ内容を一斉に進めるのは現実的ではありません。
そのため授業づくりでは、
“学年”よりも “その子が今できること” を軸にする
という考え方が非常に重要になります。
学年の違いを無理に埋めようとするのではなく、
力の違いを吸収できる授業の構造にすること がポイントです。
1|共通のテーマ × 段階別の課題にする
学年差があるクラスで最も安定する方法は、
「全員で同じテーマ」+「課題は段階別」にすることです。
例:国語 「ことば集め」
・低学年:カードから選ぶ
・中学年:同じ仲間のことばを集める
・高学年:文章づくりに挑戦する
例:算数 「形の学習」
・低学年:形カードを分類
・中学年:特徴を言葉にする
・高学年:角の数や辺の数を整理する
テーマをそろえることで授業に一体感が生まれ、
課題を分けることで負担なく取り組めます。
2|時間差でスタートさせる(個別準備が必要な子に有効)
集中の立ち上がりが遅い子や、不安が出やすい子がいる場合は、
主活動を同時に始める必要はありません。
導入 → スモールステップの準備活動 → 主活動
のように、入り方をズラすだけで授業が安定することがあります。
例:工作(生活)
Aくん:導入で内容を聞いたらすぐ作業へ
Bくん:先に材料を触って安心してから作業へ
Cくん:先生と一緒に最初の1ステップだけ取り組む
“同じタイミングで同じ活動”を目指すのではなく、
入り口を複数つくるイメージです。
3|作業量の調整で「できた」を保証する
学年差があるクラスでは、課題の量の違いが負担になります。
課題量を調整すると、全員が「できた」で授業を終えられます。
例:プリント学習
・1〜2問だけ取り組めればOK
・3問できたら達成
・全問に挑戦してみる
量を変えても“学ぶ内容は同じ”であることが重要です。
内容をそろえることで授業のまとまりが保てます。
4|見本(モデル)を学年別に変える
同じ活動でも、見本が子どもの理解度に合っていないと入れません。
そこで、見本を複数用意するだけでも授業が大きく変わります。
例:文章づくり(国語)
・低学年:1文の見本
・中学年:2〜3文の見本
・高学年:接続語を使った文の見本
見本が“手が届くレベル”だと、自分でもできると感じやすくなります。
5|振り返りは学年差の“成功体験”をつなぐ場
振り返りでは、
それぞれの学び方が認められる時間をつくります。
例:先生のまとめの言葉
「それぞれのやり方でできたね」
「みんなの進み方が違っても大丈夫だよ」
「今日のがんばりは全部正解」
学年差がある特別支援学級では、
“同じでなくていい”と伝えることが最大の安心感 になります。
6|学年差を受け入れると、授業が安定しやすくなる理由
- 比較が減り、子ども同士のストレスが少なくなる
- 先生が「そろえないと」と焦らなくなる
- 子どもの成功体験が毎時間保証できる
- 無理のない課題設定ができるため崩れにくい
- のびしろに応じて自然に個別最適化できる
学年差は“困り”ではなく、
授業の工夫を生むきっかけ として捉えると、クラス全体が落ち着きます。
・国語|読む・書くが苦手な子の支援方法

授業中の困りごとへの対応

癇癪・パニックになりそうなとき

授業準備をラクにする時短アイデア

Canvaで教材を作成
放課後10分の翌日準備
よくある質問(FAQ)

- 授業準備はどこまで必要?
-
見通しとスモールステップが最低限必要です。
特別支援学級の授業準備は、
「うまく教える準備」ではなく、
「安心して参加できる準備」見通しとスモールステップ。
この2つがあれば、
授業は成立します。 - 一斉指導と個別指導をどう両立する?
-
テーマは共通、課題は個別に設定する方法が実践的です。
「同じ場にいながら、ゴールをずらす」ことです。
- 一斉指導
見通しと流れを共有する時間
(今から何をするか・どこまでやるか) - 個別指導
できるところで止める支援
(やり方・量・ゴールを子どもごとに調整)
全員に同じことをさせなくてOK。
同じ空間・同じテーマで、違う成功を用意すれば両立できます。 - 一斉指導
- 座っていられない子には?
-
前半に動く活動を取り入れ、役割を渡すのが効果的です。
そして
「座らせる」より「参加できているか」を基準にします。
- 立っていてもOK
- 動きながらでもOK
- その場にいられたら参加扱い
まずは
① 見通しを短く
② 活動を小さく区切る
③ 体を動かす選択肢を用意する
ことが大切です。「座る=目標」ではなく、「安心して関われる状態」をゴールにします。
- 国語・算数のつまずきには?
-
読み書きの負担調整・手順の分解が基本です。
「できない原因」を教科で見ず、土台で見ていきます。
- 国語
音・意味・経験がつながっているか
(読めない=理解していないとは限らない) - 算数
量・順序・比べる感覚が育っているか
(計算以前に、イメージが持てているか)
共通する対応は、書く前・解く前に、触る・見る・話すこと。
- 国語
さらに詳しく学びたい先生へ(関連記事)

・特別支援学級の担任になったら読む記事
→ https://dogadejyugyou.com/becoming-a-homeroom-teacher-for-a-special-needs-class/
・誰も教えてくれない特別支援学級の実務
→ https://dogadejyugyou.com/nobody-teaches-me-as-a-special-needs-class-teacher/
まとめ:授業づくりは「型」と「見える化」で安定する

今日からできる3ステップ
- 流れを見える化する
- 成功しやすい課題に絞る
- できたことを必ず共有する
これを続けるだけで、授業は驚くほど安定します。






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