「板書が写せません」
「音読になると、行を飛ばしてしまうんです」
通常学級の先生から、こんな相談を受けることがよくありました。
視力検査はA。眼鏡もいりません。それなのに、黒板の字を写すのに人の何倍も時間がかかる。
そういうとき私は、「視力ではなく、目の使い方かもしれませんよ」とお伝えして、ビジョントレーニングを紹介していました。
小学校教員25年、うち特別支援学級の担任を22年してきたぷーたです。この記事では、発達障害のある子や発達が気になる子に実際に使ってきた無料のプリント・アプリと、やってみて分かった使い方をまとめます。
うまくいったことだけでなく、いちばん大きな失敗もそのまま書いています。同じところでつまずかずにすむはずです。
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板書が写せない、音読が苦手。「視力」ではなく「目の使い方」かもしれません
目には、「見える」ことのほかに、「動かす」という働きがあります。
黒板を見て、ノートに視線を落として、また黒板に戻る。文字の列を、行を飛ばさずに追っていく。飛んでくるボールを目で捉える。
これは全部、目を思ったところへ動かす力です。視力とは別のものなので、視力検査ではまず見つかりません。
次のようなことが重なっている子は、目の使い方が苦しいのかもしれません。
- 黒板の字を写すのに、人の何倍も時間がかかる
- 音読で行を飛ばす、同じ行を二回読んでしまう
- 飛んでくるボールが取れない、ドッジボールを嫌がる
- 文字が枠からはみ出る、マス目に入らない
- 定規やはさみを使うのが、ひどく苦手
ぷーた先生「目が悪いわけじゃないのに、どうしてだろう」と感じたときが、気づくきっかけです。私が通常学級の先生から受けた相談でいちばん多かったのが、「板書が写せない子がいる」でした。
読み書きのつまずきそのものについては、こちらでくわしく書いています。


ビジョントレーニングをすると効果はあるの?
トレーニングを続けると「見る力が伸びる」「見えやすくなる」「勉強や運動に取り組める」「自信が育つ」など、いいことずくめです。
私の学級でも、こんなことがありました。
・音読の宿題をやらない子供が「音読が苦手だったけど、やればできるのがわかった」と自分から宿題をするようになった。
・黒板を写さない子供が書くようになり「書くのが嫌じゃなくなった」とノートを見せてくれた。
・全く授業に参加しなかった子供が「オレ、勉強得意」と自信をつけた。
日々の指導とビジョントレーニングの積み重ねで、良い方向に進んでいるのを感じます。自立活動の時間に組み込むのもおすすめです。


ビジョントレーニングの無料プリント・アプリが手に入るサイト4つ
発達障害のある子への支援というと身構えてしまいますが、ビジョントレーニングは特別な道具がなくても始められます。まずは無料で手に入るプリントやアプリで十分です。
私が実際に使ったことがあるのは、次の4つです。
ビジョンアセスメント協会|無料プリントの種類がいちばん多い
ダウンロードできるプリントの種類が豊富です。同じような課題ばかりだと子どもが飽きてしまうので、「まずここから探す」という使い方をしていました。
メノコト365|子ども向けの教材がたくさん
目の健康について発信しているサイトです。子ども向けの教材がたくさん載っているので、学年や様子に合わせて選びやすいです。
Colorful friend's|放課後等デイサービスの団体がつくったプリント
放課後等デイサービスを運営している団体のサイトです。実際に子どもと関わっている現場から出てきた教材なので、使う場面が想像しやすいです。
▶ Colorful friend's ビジョントレーニングプリント
ことのは教室|かわいいイラストで、家庭向き
イラストがかわいいので、保護者の方が見るのにも向いています。教室のご案内も入っていますので、そこを承知したうえで教材だけ使わせてもらうと安心です。
アプリを探している場合も、まずはこうしたサイトの無料プリントを何枚か試してから選ぶほうが、その子に合うものが見つかりやすいです。理由は次の章で書きます。
無料アプリとプリント、うまくいった使い分け
どちらが良い・悪いではなく、得意なことが違います。使ってみて分かったことを3つ書きます。
アプリは「終わり」を先に見せてから始める
アプリは楽しいので、やめられなくなります。「あと1回」「あと1回」で、気づけば時間が過ぎている。
そうならないように、始める前に終わりを決めておきます。
・「3問やったら終わりね」と先に伝える
・タイマーを見えるところに置く
・終わりを決めてから、はじめてアプリを開く
順番が大事です。開いてから「あと1回で終わり」と言っても、もう遅いです。
「どこまでやったか」が見えるのは、プリントの強み
アプリの弱点は、新しく増えたものに気づきにくいことと、どこまで進んだかが見えにくいことです。
その点、プリントはたまっていきます。「こんなにやったね」が目に見える形で残るので、続ける力になります。
電子黒板があるなら、順番に当てながらみんなで
電子黒板がある教室なら、アプリやプリントを映して、みんなでやるのがおすすめです。
「最初はAくんが答えるよ。次はBくんだよ」と、順番を先に見せながら進めます。
すると、目のトレーニングをしながら、待つ・見る・応じるが同時に育ちます。コミュニケーションの学習にもなるので、時間が二重に使えます。
いちばんの失敗は「その子だけにやらせたこと」
ここが、私がいちばん失敗したところです。
最初は、目の使い方が課題だと思われる子だけにやらせていました。必要な子に必要な支援を、と考えたからです。
ところが、ビジョントレーニングの課題はとにかく楽しそうに見えるのです。周りの子が「なにそれ」「ぼくもやりたい」となる。
そして「ずるい」が始まって、授業そのものが成り立たなくなりました。
そこで分かったことは、とてもシンプルでした。
ビジョントレーニングは、やるときはクラスのみんなでやる。
やらなくてもいい子まで巻き込んでいいのか、と思われるかもしれません。でも、みんなやりたがるのです。そして、やって困ることは何もありません。



支援を入れると「特別扱い」に見えてしまうことがあります。ビジョントレーニングは、みんなで楽しめる形にできるので、そこをうまくかわせる数少ない支援だと思っています。
課題は、びっくりするくらいやさしいところから始める
もうひとつ、大事なことがあります。
ビジョントレーニングが必要な子ほど、ビジョントレーニングをおもしろがりません。
周りの子が「楽しい!」と盛り上がっている課題を、その子は「ふつう」という顔でやっている。しんどいから、楽しめないのです。
ですから、課題は、びっくりするくらいやさしいところから始めます。
私が担任していた4年生の子には、1年生レベルの課題から渡しました。音読も、学校では嫌々ながらやっていましたが、その学年の教材は本当に難しすぎてできなかったからです。
「4年生なのに1年生の課題でいいのかな」と迷うところですが、できないものを続けても力はつきません。できるところまで下げるほうが、結果的に早く進みます。
文字を書くこと自体につまずいている場合は、こちらの手順も合わせてどうぞ。


効果はいつから出るの?週1回の授業+毎日のプリント
効果はいつから出るのでしょうか。まず、専門の先生の本にはこう書かれています。
1日10~20分行うのが理想であるが、最低でも2~3分くらいから行ってみましょう。毎日行うほうが改善効果は上がる上がるようです。
早い人で3ヵ月くらいで改善効果が出てきます。定着するまで半年から1年くらいはトレーニングを続けましょう。
北出先生の著書『学ぶことが大好きになるビジョントレーニング』
この引用は、こちらの本からです。視覚機能チェックリストが載っているので、その子がどのトレーニングに向いているかを先に確かめられます。
私の体感としても、朝の会や自立活動の時間を使って続けて、効果が感じられるのは半年から1年くらいです。「気づいたら最近ノートのマスからはみ出さなくなったな」という形で表れます。
私がやっていたのは、次の2本立てです。
- 週1回、時間割に「ビジョントレーニングの学習」を入れる(5〜10分・クラス全員で)
- 毎日、必要な子には宿題としてプリントを1枚渡す
週1回だけでは足りません。目の使い方は筋トレと同じで、少しずつでも毎日やるほうが変わります。だから、宿題に組み込みました。
そして、1年生の課題から始めた4年生の子が、すらすら読めるようになりました。
すると、今度は本人から「もっとやりたい」と言い出します。できるようになると、急に楽しくなるからです。この流れになった子は、一人や二人ではありません。



「いつから効果が出ますか」とよく聞かれます。私の感覚では、毎日プリントを続けている子ほど、変化が見えるのが早かったです。週1回だけで様子を見ていた時期は、正直よく分かりませんでした。
眼科で診てもらったほうがいい?おうちでできること
気になることがあれば、まずは眼科で診てもらってください。目そのものに理由がある場合もあるからです。
【ビジョントレーニングを行う前に】
北出先生の著書「学ぶことが大好きになるビジョントレーニング」
・眼科を受診して視力の問題や眼の病気がないかどうか調べてください。
・もし、遠視、近視、乱視などがあり、メガネなどで矯正する必要があれば、矯正を行ってからトレーニングを始めてください。
・進行中の眼の病気などがあり、眼を動かすと危険などということがなければ、視覚機能のトレーニングは、大体において可能です。
ただ、正直にお伝えすると、ビジョントレーニングに詳しい眼科の先生は、まだ多くありません。詳しいところは評判が広がって、予約がなかなか取れないと聞きます。
ですから、「専門のところにかかれないから何もできない」とは考えなくて大丈夫です。
目の使い方は筋トレと同じなので、おうちの人と一緒に少しずつ続けることが、いちばん効きます。難しいことでなくてかまいません。
- お手玉でキャッチボールをする
- お手玉やけん玉であそぶ
- おはじき、あやとり、ビー玉
- 風船を落とさないように打ち合う
あらためて見てみると、昔ながらの遊びには、目を使うものがとても多いのだなと思います。特別な教材を買わなくても、家にあるもので始められます。
家でできる具体的なやり方(遊び方)は、こちらでくわしく紹介しています。おすすめ書籍や無料アプリ・プリントも載せています。


ビジョントレーニングのよくある質問
- ビジョントレーニングでつく力は何ですか?
-
ビジョントレーニングでは、この眼の諸機能(視覚機能)を鍛えることによって、脳を活性化させ視空間認知能力を向上させるとともに、人が本来持つ集中力・判断力・情報処理能力など、様々な能力を高められるといわれています。
- ビジョントレーニングで鍛えられる5つの能力は?
-
まず、ビジョントレーニングで期待できる効果として、「素早く目を動かし、見たいものを見られるようになる」「左右の目のバランスを整える」「見たものを認識し、記憶しやすくなる」「目と体を協調して使えるようになる」「周辺視野を広げることができる」の5つの能力があげられます。
- ビジョントレーニングは視力にどのような効果があるのでしょうか?
-
ビジョントレーニングには、眼球を動かす筋肉、眼筋を鍛えることで両目を使って目標物を正確に捉えたり、目からの情報を脳で処理して体を動かす運動機能を向上する効果があります。
- 視力が良くても、ビジョントレーニングは必要ですか?
-
視力と目の使い方は別のものです。視力検査がAでも、板書が写せない・音読で行を飛ばすといったことが続くなら、目の使い方に苦しさがあるかもしれません。
- 無料のプリントやアプリだけでも大丈夫ですか?
-
大丈夫です。まずは無料のプリントを何枚か試して、その子が取り組めるレベルを見つけるほうが先です。教材を買うのは、それからで遅くありません。
- 対象の子だけにやらせても良いですか?
-
おすすめしません。周りの子が「楽しそう」「ずるい」となって、授業が進まなくなります。やるときはクラス全員でやるほうが、結果的にうまくいきます。
- どのくらいの頻度でやればいいですか?
-
週1回まとめてやるより、5分でも毎日のほうが効きます。私は週1回の授業に加えて、必要な子には毎日プリントを宿題として渡していました。
- 発達障害の診断がない子にやってもいいですか?
-
はい。診断の有無は関係ありません。むしろクラス全員でやることをおすすめしています。目の使い方は、どの子にとっても学習の土台になる力だからです。
まとめ|まずは無料のプリントを1枚、みんなでやってみる
この記事でお伝えしたことを、もう一度まとめます。
- 板書が写せない・音読が苦手は、視力ではなく目の使い方かもしれない
- 無料のプリント・アプリは4つのサイトで手に入る
- アプリは終わりを先に見せてから開く
- その子だけにやらせない。やるときはクラスのみんなで
- 課題はびっくりするくらいやさしいところから
- 週1回の授業+毎日のプリントが、いちばん変わった
明日からできることは、ひとつだけです。
無料のプリントを1枚だけ印刷して、クラスのみんなでやってみる。
それだけで、「あの子、目を動かすのがしんどいのかもしれない」という発見があるはずです。始まりは、いつもそこからでした。
ぷーたのX (Twitter):https://twitter.com/aki2000oakp
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