特別支援学級で子どもと向き合っていると、「できないこと」のほうが目に入りやすいものです。
ですが、国際機関(WHO・UNICEF・UNESCO)の提言でも、近年は “できること・強みを起点にする支援” が主流になっています。
私自身も、パーソナルトレーニングで「ここの動きができていないですね」と弱点だけを指摘され、やる気をなくした経験があります。
反対に「この動きは得意ですね、ここを軸にしましょう」と言われた時は、自然と体が前向きに動きました。
教育もまったく同じで、子どもが“できる部分”から学びを広げるほうが、成長スピードも、安心感も、意欲も大きく変わるのです。
この記事では、
なぜ「できることに注目する指導」が効果的なのか?
なぜこの考え方が国際的な基準になっているのか?
を、根拠とともにわかりやすく解説します。
パーソナルトレーニングで気づいた「できない指摘のつらさ」

あるとき、人生で初めてパーソナルトレーニングを受けたのですが、
トレーナーから最初に言われたのが、
「この動きができていませんね」
「ここが弱いですね」
という“できない指摘”の連続でした。
本当は健康のために始めたのに、
「私ってダメなんだ…」と感じてしまい、正直やる気が削がれました。
大人でもこうなるのだから、子どもならなおさらだと思います。
できないところを並べられても、前に進む力は出ません。
だからこそ、子どもに対して
「できている部分に光を当てる」ことが、学びの土台になるのです。
なぜ「できることに注目する」指導が効果的なのか?

子どもは「できた」という実感が積み重なるほど、自信が育ち、苦手に向き合う気力が湧きます。
逆に「できない」と指摘され続けると、大人でも心が折れてしまうように、子どもも前に進む力を失ってしまうことがあります。
そのため特別支援教育では、
“できる” → “やってみたい” → “わかるかもしれない” → “できた!”
という小さな成功の循環をつくることが何より大切。
実はこの考え方は、個人の感覚ではなく、WHOやUNICEFをはじめとする国際機関が推進している ストレングス(強み)を起点にする支援アプローチ と同じ方向性です。
① 自信が原動力になる
“できた”という実感は、学習態度を変えます。
子どもは安心し、挑戦する意欲が生まれます。
② 得意が苦手をカバーする
強みがあると、苦手に向かうエネルギーが増えます。
自転車の補助輪のように、得意な活動は心の支えになります。
③ 行動が安定しやすい
好き・得意な活動は集中しやすく、結果として行動面の落ち着きにつながります。
この考え方は国際的にも“根拠あり”

特別支援学級の子どもたちと向き合っていると、どうしても「まだできないこと」に目が行きがちです。
けれど、教育の世界では今、“得意を伸ばし、苦手をカバーする”というアプローチが国際的にも推奨されています。
WHO(世界保健機関)やUNESCO・UNICEFといった国際機関は、障害のある子どもの学びについて、
「強みを生かすことが成長と参加を促す」と明確に提言しています。
これは、特別支援教育だけの特殊な考え方ではなく、教育の国際基準が示す“根拠ある視点”です。
ここでは、この考え方の背景と、現場でどう生かせるかをまとめます。
WHO Policy on Disability(2020)より(引用翻訳)
「障害のある人々がもつ能力・強み・可能性を尊重し、
その参加と包摂をあらゆる制度の中心に置く。」
(“respect the abilities, strengths, and potential of persons with disabilities and place their participation and inclusion at the centre of all policies and programmes.”)
👉原文PDF:
https://www.who.int/docs/default-source/disability/who-disability-policy-2020.pdf
WHOは、障害のある人を“保護の対象”ではなく、
「強みをもつ一人の主体」として扱うべきだと明確に示しています。
この考え方は、UNESCO・UNICEFのインクルーシブ教育ガイドラインにも共通し、
「子どもの得意・強みを基点に学びを設計する」ことが効果的であるとされています。
文部科学省|合理的配慮・個別最適な学び
文部科学省は、合理的配慮の提供において
「児童生徒一人一人の教育的ニーズに応じた指導や支援が重要」
と明記しています(文部科学省, 2020)。
また、「個別最適な学び」でも
「よさや可能性を伸ばす」ことを基本に据えており、
子どもの“できること”を起点にした指導は
国の教育方針においても根拠がある考え方です。
現場でできる「得意を伸ばす」指導アイデア

「強みに注目したい」と思っても、
忙しい毎日の中で“具体的にどう動けばいいか”悩む先生も多いはずです。
ここでは、特別支援学級で実際に取り入れやすい、
シンプルだけど効果が大きい「得意を伸ばす」アイデア を紹介します。
どれも、今日からすぐに実践でき、授業・生活・個別支援のどこにでも応用できます。
- 朝の会で“得意な役割”をお願いする
- 国語は絵カードや読み上げでサポートしつつ、得意な語彙から広げる
- 体育の前に好きな準備運動を入れて気分を整える
- 苦手課題は“短時間×小さな成功”で積み重ねる
- 得意な活動を「アンカー」にして一日の流れをつくる
朝の会で“得意な役割”をお願いする
朝の時間は、その日の気分を左右する大事なタイミングです。
ここで得意な役割を任せると、その子の1日のリズムが整いやすくなります。
- 声が大きい子 → 「号令係」
- てきぱき動ける子 → 「黒板消し係」
- 音楽が好きな子 → 「歌のリード」
「自分の出番がある」という実感が、その日の安心につながります。
国語は絵カードや読み上げでサポートしつつ、得意な語彙から広げる
苦手な読み書きに“いきなり挑ませる”のではなく、まずは 得意な語彙・興味のある言葉 から入ると、集中が続きやすくなります。
ポイント
- 絵カードを使うと、視覚的に理解しやすい
- 読みにくい子には“読み上げ”を併用
- 好きなキャラクターや食べ物の語彙からスタート
- できた言葉をノートに“できたリスト”として残す
得意な語彙から広げることで、読み書きの“最初のつまずき”を防げます。
体育の前に好きな準備運動を入れて気分を整える
体育は好き嫌いが分かれやすい時間。
苦手な子は、はじめに「好きな動き」を取り入れるだけで参加しやすくなります。
- 動物歩き
- スキップ
- ボールつき
- その場でジャンプ
小さな成功を先に体験することで、「やってみよう」という気持ちにつながります。
苦手課題は“短時間×小さな成功”で積み重ねる
苦手な課題は、長く取り組むほど集中が切れやすくなります。
そこで、“短い時間で確実にできる内容”に区切ることが効果的です。
- 書字が苦手 → 「1分だけなぞり書き」「1文字だけ丁寧に」
- 計算が苦手 → 「同じ問題を2題だけ」「10秒チャレンジ」
- 行動が落ち着かない → 「やる→休む→やる」の短時間サイクル
“小さな達成”を積み重ねることで、「できた」という手応えが増えていきます。
得意な活動を「アンカー」にして一日の流れをつくる
“アンカー”とは、気持ちを落ち着かせる“よりどころ”のこと。
子どもにとって安心できる活動を1日の中に必ず入れると、学校生活が安定します。
- 朝:好きな絵本を読む
- 昼前:得意なパズルを3分だけ
- 帰り:得意な係活動でしめくくる
「ここは得意な時間だ」とわかっているだけで、他の活動への参加意欲が高まります。
特別支援教育|できることに注目する指導が子どもを伸ばす理由【インクルーシブ教育の根拠】のQ &A

- 得意ばかり伸ばしていて、苦手は放置になりませんか?
-
放置ではなく 短時間・少量での積み重ね を行います。
苦手は「小さく区切って成功しやすくする」のがポイントです。 - 得意が見つからない子の場合は?
-
行動・表情・好きな物・安心している瞬間にヒントがあります。
たとえば「折り紙を触っている時だけ落ち着く」なども立派な得意の種です。 - 保護者にどう説明すれば納得してもらえますか?
-
「苦手の改善は、得意を軸にしたほうが進みやすい」
「できる体験があると、行動と意欲が安定する」
と事実ベースで説明すると、理解されやすいです。 - 得意が偏っている場合(ゲーム・電車など)はどう使う?
-
そのまま教材として使うのではなく、
興味 → 学びにつなげる ‘橋渡し’ が最も効果的です。
例:電車好き → 乗り場の数字で算数/発車メロディで音読 など。 - クラス全体で取り入れるときのポイントは?
-
子どもごとに“アンカー”を設定し、授業内で必ず一回は「できる場面」があるように組むこと。
これだけでクラスの雰囲気が変わります。
特別支援教育|できることに注目する指導が子どもを伸ばす理由【インクルーシブ教育の根拠】のまとめ

できるところを探す指導は、その子の力を伸ばすだけでなく、心の土台を支える大切な視点です。
あなた自身がパーソナルトレーニングで感じた
「できないと言われ続けるつらさ」は、子どもたちも同じように感じています。
だからこそ、
得意から伸ばし、苦手をそっと支える指導が必要なのです。
子どもの視界に“できる自分”が増えるほど、
学級はもっと穏やかに、子どもたちはもっと前に進めます。




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