「個別の指導計画を作成する際に、どこから手を付ければ良いのか分からない」
「計画を立てても、実際の指導にどう活かすかが難しい」
「他の先生方とどう協力していけば良いのか悩んでいる」
こうした悩みは多くの特別支援学級の担任が抱えています。個別の指導計画は、子供一人ひとりの特性やニーズに合わせた細やかな計画が求められ、その作成には時間と労力がかかります。しかし、この記事ではその悩みを解消し、スムーズに計画を立て、実践に移すための具体的な方法を紹介します。
文例集も載せたから参考にしてね!
はじめに
まずはじめに、「個別の指導計画」と「個別の教育支援計画」の言葉の意味の整理をしましょう。
「個別の指導計画」とは
個別の指導計画は、特別支援学級の児童一人ひとりの特性に応じた最適な教育を提供するための計画書です。
この計画は、児童の障害や特性、学習状況に基づき、具体的な指導目標や方法を明確にするために作成されます。文部科学省のガイドラインによれば、「個別の指導計画は児童の教育的ニーズを詳細に把握し、それに基づいて作成されることが重要」とされています 。
個別の指導計画は、特別支援教育の質を高め、児童の成長を支援するために不可欠なツールです。
「個別の教育支援計画」との違い
「個別の指導計画」と「個別の教育支援計画」は目的が異なり、互いに補完し合うものです。
「個別の教育支援計画」は、教育、心理、医療、福祉などの関係機関が連携して児童を長期的に支援するための計画です。一方、「個別の指導計画」は学校内で具体的な教育活動を行うための計画です 。
個別の指導計画と個別の教育支援計画は、異なる目的を持ちながらも児童の支援において重要な役割を果たします。
「個別の指導計画」作成のための実態把握
実態把握は簡単なようで難しいですね。全てがわからなくても大丈夫です。不明なところは「不明」「課題として取り組んでいない」としてもいいのです。わかる範囲で把握していきましょう。
教育的ニーズの把握
教育的ニーズの把握は、「個別の指導計画」を作成する上で最も重要なステップです。
児童の特性や障害の種類、学習の進捗状況を詳細に理解することで、適切な目標設定と指導方法を選定することができます。実態把握は、教育の質を左右する重要な要素です。
正確な実態把握が、子供に適した教育を提供するための基礎となります。
障害特性の理解
障害特性の理解は、児童一人ひとりに適切な支援を行うために欠かせない要素です。
障害の種類や特性に応じた指導法を選択することで、児童の学習効果を最大化することができます。これは、教育現場での実践を通じて確認されています。
例えば、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所では、各種障害に応じた支援方法をリーフレットとして提供しており、これを参考に多くの教育現場で活用されています。
障害特性を理解することで、子供に最適な支援を提供することができます。
保護者・関係機関との連携
保護者や関係機関との連携は、「個別の指導計画」の効果を高めるために重要です。
保護者や関係機関との情報共有により、家庭での生活状況や他の支援活動を把握することで、学校での指導をより効果的に行うことができます。
例えば、私自身これまで児童精神科の医師や病院スタッフ、児童相談所など福祉施設の職員、役所の子供家庭支援課の職員などとケース会議などを行なってきました。
保護者や関係機関との連携が、児童の成長を促進するために不可欠であり、さらに「個別の指導計画」として記録に残すことで次年度の引き継ぎ資料になります。
個別の指導計画の作成手順
自治体によって作成内容が変わってきます。必ずご自身の自治体の教育委員会HPや指導課の担当に確認してください。
作成の流れ
「個別の指導計画」の作成には、準備段階から評価・見直しまでの一連の流れが必要です。
計画の作成には、子供の実態把握、目標設定、指導内容の具体化、評価・見直しの各ステップが含まれます。これらによって、計画が効果的に機能させることができます。
一連の流れを踏むことで、効果的な「個別の指導計画」が作成できます。
記入例と様式
具体的な記入例と様式を参考にすることで、計画作成が楽になります。
記入例や様式を活用することで、「個別の指導計画」作成の効率が向上し、質の高い計画が作成できます。
山梨県では、具体的な記入例や様式を提供し、「個別の指導計画」作成をサポートしています (Prefecture of Yamanashi)。
記入例と様式の活用が、「個別の指導計画」作成を円滑に進める鍵となります。なお、必ずしも枠を目一杯埋めなければならないわけではありません。わからないことはそのまま空欄でもよいですよ。
具体的な目標設定
明確な目標設定が、「指導の指導計画」の成功に直結します。
具体的な目標設定により、指導の方向性が明確になり、成果がわかりやすくなります。
例えば千葉県では、障害特性に応じた具体的な目標設定の指針が提示されています。
明確な目標設定が、効果的な指導を実現するための重要なステップと言えますね。
ついでにこの目標は通知表と連動させることで、一石二鳥にも三鳥にもなります。
個別の指導計画の短期目標の一部を通知表に組み込むイメージです!
指導内容と方法の明確化
指導内容と方法を明確にすることで、計画が具体的かつ実行可能になります。
具体的な指導内容と方法を設定することで、教師が実際に指導を行いやすくなり、子供の学習効果が向上します。
「個別の指導計画」があることで、複数担任の場合の特別支援学級でも、指導内容と方法が明確化され共通理解できることで、計画の実効性を高めます。
「個別の指導計画」の実施
計画を立てて終わりではダメです。実際どのように計画の実施するか解説します。
適切な指導方法を選定し、計画通りに実施することが重要です。基本はメモをこまめに取ります。名簿に気が付いたことをメモしておくことで、「個別の指導計画」や通知表、保護者への連絡帳にも使えます。
指導方法の選定は、児童の特性や学習状況に応じた適切な方法を用いることで、学習効果が上がります。実際計画だけでは進みませんよね。
適切な指導方法の選定と実施が、児童の成長を促します。
実施後に計画を見直すこと「変更しても良いこと」は忘れないでください。指導計画は「計画」です。評価や面談で赤を入れて訂正することが本来の「個別の指導計画の活用」であると思います。
途中で書き足したり訂正するものだと思って作成すると気が楽ですね!
通知表にも使える!「個別の指導計画」の文例集
参考として各教科、領域の例文を載せておきます。「個別の指導計画」としては国語・算数だけでも十分ではありますが、通知表と連動させることも考え、他の教科、領域の文例も載せています。必ず勤務先の自治体の個別の指導計画の作成内容と合っているかご自身でご確認ください。
自立活動
- 自己管理能力を養うために、毎日スケジュールを作成し、それに従う
- 社会生活スキルを向上させるために、毎週1回社会参加活動を行う
- コミュニケーション能力を高めるために、毎日対話練習を行う
- 健康管理能力を養うために、毎日健康チェックを行う
- 安全意識を高めるために、毎月1回防災訓練を行う
- 金銭管理能力を身につけるために、毎週1回お金の使い方を学ぶ
- 職業スキルを習得するために、毎週1回簡単な作業練習を行う
- 時間管理能力を高めるために、毎日時計の読み方と時間の管理を練習する
- 自信を持つために、毎月1回自己評価を行う
- 他者との協力を学ぶために、毎週1回グループ活動を行う
国語
- 新しい漢字を覚えるために、毎日3つの漢字を書いて練習する
- ひらがなを上手に書くために、毎日ひらがな練習帳に取り組む
- 物語を楽しむために、毎日10分間絵本を読む
- 言葉の意味を知るために、毎週新しい単語を3つ覚える
- 作文が上手になるために、毎月1つのテーマで100字の作文を書く
- 友達と話す力をつけるために、週に1回友達とお話の時間を作る
- 文章を理解するために、毎週1つの短い文章を読んで質問に答える
- 物語を楽しむために、毎月1冊の絵本を読んで感想を話す
- カタカナを覚えるために、毎日カタカナ練習帳に取り組む
- 聞く力をつけるために、毎週先生の話を聞いてその内容を絵に描く
算数
- 数の概念を理解するために、毎日数の練習カードで遊ぶ
- 計算力をつけるために、毎日5問の簡単な計算問題に取り組む
- 時計の読み方を覚えるために、毎週1回時計の練習をする
- 数を数える力をつけるために、毎日1から50まで数を数える
- 足し算と引き算を覚えるために、毎日計算カードを使う
- お金の使い方を学ぶために、毎週1回お店屋さんごっこをする
- 形を覚えるために、毎週1回いろいろな形を探すゲームをする
- 大きさを比べるために、毎週1回いろいろな物の大きさを測る
- 順番を覚えるために、毎日順番に並べる練習をする
- 分ける力をつけるために、毎週1回物を分けるゲームをする
生活
- 日常生活の理解を深めるために、毎週1回学校のルールやマナーについて話し合う
- 健康習慣を身につけるために、毎日手洗いや歯磨きの練習をする
- 整理整頓の習慣をつけるために、毎日自分の机を片付ける
- 交通ルールを覚えるために、毎月1回交通安全のビデオを見る
- 季節の変化を感じるために、毎週1回校庭の自然観察をする
- お友達との関係を良くするために、毎週1回一緒に遊ぶ時間を作る
- 自分の気持ちを伝えるために、毎日先生に今日の出来事を話す
- 役割分担を学ぶために、毎週1回クラスの仕事を手伝う
- 簡単な料理を覚えるために、毎月1回先生と一緒におやつを作る
- 地域の行事に参加するために、毎年1回地域のイベントに参加する
体育
- 体力を向上させるために、毎日5分間のかけっこをする
- バランス感覚を養うために、毎週1回平均台で歩く練習をする
- 協調性を養うために、毎週1回チームでの鬼ごっこをする
- 柔軟性を高めるために、毎日5分間のストレッチをする
- 運動能力を向上させるために、毎週1回ボール投げの練習をする
- リズム感を養うために、毎週1回音楽に合わせて体を動かす
- 自信をつけるために、毎月1回できるようになったことを発表する
- 持久力をつけるために、毎週1回長い距離を歩く練習をする
- 体の使い方を学ぶために、毎週1回さまざまな運動遊びをする
- 楽しむ心を育てるために、毎月1回みんなでゲームをする
音楽
- リズム感を養うために、毎日5分間リズム打ちの練習をする
- 歌を楽しむために、毎日10分間好きな歌を歌う
- 音楽を感じるために、毎週1回音楽に合わせて踊る
- 楽器の演奏を覚えるために、毎週1回簡単な楽器を使う
- 音楽の基礎を学ぶために、毎週1回音符の練習をする
- 協力して音楽を作るために、毎月1回みんなで合奏する
- 表現力を養うために、毎月1回音楽発表会を行う
- 音楽を聴く力をつけるために、毎週1回クラシック音楽を聴く
- 自分の音楽を作るために、毎月1つの簡単な曲を作る
- 音楽を楽しむために、毎週1回好きな音楽を聴く時間を作る
図工
- 絵を描く力をつけるために、毎週1枚の絵を描く
- 色を覚えるために、毎日色塗りの練習をする
- 形を作る力を養うために、毎週1回粘土で作品を作る
- 創造力を育むために、毎月1つの工作プロジェクトを行う
- 観察力を高めるために、毎週1回自然のものを描く
- デザイン力をつけるために、毎月1つのデザインを考える
- 表現力を伸ばすために、毎月テーマを決めて作品を作る
- 異なる素材を使うために、毎月1つ新しい素材で作品を作る
- 共同制作を学ぶために、毎月1回グループで作品を作る
- 美術を楽しむために、毎月1人の有名な画家の作品を鑑賞する
社会
- 地域を理解するために、毎月1回地域の歴史を学ぶ
- 日本の地理を覚えるために、毎週1つの都道府県を調べる
- 世界の文化を学ぶために、毎月1つの国について調べる
- 歴史を学ぶために、毎月1つの歴史的な出来事を調べる
- 社会の仕組みを学ぶために、毎週1つの社会ルールについて学ぶ
- 社会問題を考えるために、毎月1つの社会問題について話し合う
- 経済の基本を学ぶために、毎月1つの経済の仕組みを学ぶ
- 地理を理解するために、毎週1つの地理的特徴を調べる
- 環境を守るために、毎月1つの環境問題について学ぶ
- 世界を知るために、毎月1回国際ニュースを調べる
理科
- 自然を感じるために、毎週1回校庭で自然観察をする
- 実験を楽しむために、毎月1回簡単な科学実験を行う
- 生き物を学ぶために、毎週1つの動物や植物を調べる
- 天気を理解するために、毎日天気を記録する
- ものの性質を学ぶために、毎週1つの物の実験を行う
- 環境を守るために、毎月1回リサイクル活動を行う
- 音の性質を理解するために、毎週1回音の実験を行う
- 季節の変化を感じるために、毎月1回季節の自然観察をする
- 宇宙について学ぶために、毎月1つの星や惑星について調べる
- 科学に興味を持つために、毎週1回科学に関する絵本を読む
外国語、外国語活動
- 基本的な単語を覚えるために、毎日5つの英単語を練習する
- 発音を向上させるために、毎週1回英語の歌を歌う
- 聞く力を養うために、毎日10分間英語の音声を聞く
- 話す力をつけるために、毎週1回英語で自己紹介をする
- 簡単な文章を読む力をつけるために、毎週1つの英語の絵本を読む
- 書く力を養うために、毎日簡単な英語の文章を書く
- 英語に親しむために、毎週1回英語のゲームをする
- 日常英会話を学ぶために、毎日英語の挨拶を練習する
- 英語の文化を知るために、毎月1つの英語圏の文化について学ぶ
- 英語を楽しむために、毎月1回英語の映画を観る
日常生活の指導の目標
- 身だしなみを整えるために、毎朝の身支度を自分で行う
- 衛生習慣を身につけるために、毎日手洗いや歯磨きの練習をする
- 時間管理を学ぶために、毎日スケジュールを作成しそれに従う
- 健康を維持するために、毎日バランスの良い食事を取る
- 整理整頓を習慣化するために、毎日自分の机や部屋を片付ける
- 交通ルールを理解するために、毎週1回交通安全のビデオを見る
- お金の使い方を学ぶために、毎月1回お店屋さんごっこをする
- 人との関わり方を学ぶために、毎週1回友達と遊ぶ時間を作る
- 自己管理能力を養うために、毎週1回自分の目標を設定し達成する
- 安全意識を育むために、毎月1回防災訓練を行う
実態に合わせて、内容や数字は変えてお使いください。
繰り返しになりますが勤務先の自治体の個別の指導計画の作成内容と合っているかご確認ください。
特別支援学級での個別指導計画作成のポイントと手順のQ&A
- 個別の指導計画は誰が書きますか?
-
基本的には担任です。または特別支援教育コーディネーターが中心となり、児童生徒及び保護者から 現在の様子や将来の希望を聞きます。 その上で、担任が特別支援教育コーディネ ーターの助言を受けながら「個別の教育支援計画」の原案を作成します。
- 個別支援計画書に印鑑は必要ですか?
-
個別支援計画書の同意は、6ヶ月以内にその都度文書にて保護者に捺印(署名と印鑑)をもらう必要があります。しかし、昨今のペーパーレス化や印鑑レスが進んでいるため、自治体によっては無しになるケースもあります。
- 個別の指導計画の法的根拠は?
-
個別の教育支援計画の法的根拠は、現行の障害者基本計画にあります。 具体的には、 障害者基本計画の行動計画である「障害者基本計画の重点施策実施5か年計画」の中で盲・聾・養護学 校において、平成17年度までに個別の教育支援計画を策定することが書き込まれました。
- 個別の育支援計画はどのように引き継ぎますか?
-
個別の教育支援計画は基本的に保護者の承諾の下に関係者・関係機関に引き継ぎます。 原則として 原本を保護者に渡し、進学先、転学先に引き継いでもらえるように依頼します。 そして個別の教育支援計画の写しを学校に保管します。
しかし実際のところ、原本をなくしたり捨てたり(ないとは思いますが)するかもしれない保護者の場合は、コピーを渡して「原本はこちらで中学に送りましょうか?」と提案することもありました。必ず保護者の許可をとります。
- 個別指導計画は義務ですか?
-
小学校・中学校・高等学校の学習指導要領では、特別支援学級や通級による指導において、「個別の教育支援計画」や「個別の指導計画」を作成することが義務付けられています。
【新任者必見】特別支援学級での個別指導計画作成のポイントと手順のまとめ
個別の指導計画は、特別支援学級に在籍する児童一人ひとりに最適な教育を提供するための重要なツールです。これにより、児童の特性に応じた指導が可能となり、学習効果を最大限に引き出すことができます。教育者は、計画を定期的に見直し、改善することで、より良い教育環境を提供し続けることが求められます。
実態把握の上での作成、実施、見直し、修正していくという流れで個別の指導計画を活用し、子供たちをさらに伸ばしてきましょう。
ぷーたのX (Twitter):https://twitter.com/aki2000oakp
Kindle出版:「特別支援学級の担任になって」と言われたら読む本
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Kindle出版:「特別支援学級の担任になって」と言われたら読む本〜体育編〜
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