ソーシャルストーリーは、1991年にアメリカの教育学者キャロル・グレイによって開発された教育技術で、社会的な状況や行為などを絵や写真を使い、わかりやすい文章で表現しています。当事者と関係者がお互いに理解し合い、安心できる状況をつくることを目的としています。
ソーシャルストーリーは、実際の課題を取り上げることで問題解決を高めることができます。また、自閉症スペクトラムなどの発達障害であるか否かに関わらず、ソーシャルストーリーを取り入れることで解決方法が見えてくる場合もあります。
ソーシャルストーリーの5つの事例
以下に、ソーシャルストーリーを効果的に活用した代表的な5つの具体的な事例を紹介します。
- 新しい環境への適応: 小学校で転校生のために特別なソーシャルストーリーを用意し、転入先でも困らない手立て。
- 友達との関わり: 障害を持つ子供が友達と適切にコミュニケーションを取れるように、対話のシナリオを含むソーシャルストーリーを導入。
- 教室でのルール理解: 特別支援学級の子供に教室のルールを理解させるために、具体的な行動を描いたソーシャルストーリーを使用。
- 感情のコントロール: 感情的な課題を持つ子供に対し、感情を適切に表現する方法を教えるソーシャルストーリーを作成。
- 公共の場での行動: 公共の場所での適切な行動を教えるために、図書館やスーパーでの行動を説明するソーシャルストーリー。
順に解説していきます。
どの事例もありそうですね
新しい環境への適応
小学校で転入生のために特別なソーシャルストーリーを用意し、新しい学級へのスムーズな転入を手助けしました。
ソーシャルストーリーの導入
A君のため、以下のステップでソーシャルストーリーを作成しました。
- ニーズの特定:A君が特に不安を感じている場面(休み時間、新しい教室、新しい担任や関係する教師との接触など)を特定しました。
- ストーリーの作成:A君が新しい環境に慣れるためのステップを、簡単な言葉と明確なイラストを用いて説明するストーリーを作成しました。例えば、「新しい教室に入るとき、先生が笑顔で迎えてくれます」といった具体的なシナリオを描写しました。
- 視覚的サポートの利用:ストーリーには、新しい教室の写真や、A君が接することになる担任や友達の写真を含め、視覚的な要素を豊富に取り入れました。
- 事前学習:学校開始前に、A君が家でソーシャルストーリーを何度も見ることができるようにしました。また、スクールカウンセラーや特別支援学級担任と一緒にストーリーを読み、具体的な質問に答える時間を持ちました。
ソーシャルストーリーを事前に繰り返し読むことで、A君は新しい学校の日常と期待される行動について理解を深めました。学校初日、A君は予め学んだ通りに行動し、リラックスしている様子で担任や友達と交流を始めることができました。「ソーシャルストーリーがなければ、こんなにスムーズなスタートは期待できなかった」との保護者から感想が寄せられました。
この事例は、ソーシャルストーリーが特別支援が必要な子どもの学校生活への適応を助ける有効なツールだとわかります。新しい環境への不安を軽減し、自信を持って行動するための具体的なガイドとして機能しました。
友達との関わり
障害を持つ子供が友達と適切にコミュニケーションを取れるように、対話のシナリオを含むソーシャルストーリーを導入しました。以下に、そのためにどのようにソーシャルストーリーを設計し、具体的な対話シナリオを組み込んだかを詳細に説明します。
- 目的の明確化:このストーリーの主な目的は、子供が友達との日常的なやり取りを理解し、安心して参加できるようにすることです。特に休み時間やグループ活動中の対話のシナリオを中心に構築しました。
- 日常的なシチュエーションの選定:学校生活でよくある状況、例えば休み時間に友達と遊ぶ、授業中にグループで作業をする、昼食時に話すなどのシナリオをピックアップしました。
対話のシナリオの導入
- 休み時間の遊び:「外でボールを蹴ろうとするとき、まずは『一緒にボール蹴ろうか?』と友達に声をかけよう。友達が『うん!』と答えたら、一緒に遊び始めるんだよ」というシナリオを作成。このページには、友達が笑顔で応答するイラストを添えます。
- グループ作業:「授業でグループ活動が始まるときは、『何から始めようか?』と聞いてみよう。みんなでアイデアを出し合うことが大切だよ」という対話を紹介。グループで話し合う子どもたちのイラストを使用します。
ソーシャルストーリーの利用
- ソーシャルストーリーは、教室やカウンセリングの時間に、担任やカウンセラーが直接読み聞かせる形式で使用します。これにより、子供は安心して質問をしやすくなり、ストーリーの内容を実際の日常生活に応用する方法を学びます。
- 定期的な反復とロールプレイを通じて、子供はこれらの対話スキルを徐々に身につけ、自然なコミュニケーションを取れるようになります。
- このようにソーシャルストーリーを通じて、障害を持つ子供が友達との適切なコミュニケーションを学び、実生活で活用できるようになることが目指されています。
教室でのルール理解
特別支援学級の子どもたちに教室のルールを効果的に理解させるためにソーシャルストーリーを使用するアプローチは、とても有効です。以下に、具体的な行動を描いたソーシャルストーリーを使用して、教室のルールを教えるための詳細なプロセスを説明します。
ソーシャルストーリーの構成
- ルールの選定:子どもたちが日常的に遵守すべき基本的なルールを定めます。例えば、「手を挙げてから話す」「友達の物に触らない」「授業中は静かにする」など、教室の秩序を保つためのルールを設定します。
- シナリオ作成:各ルールに対して、具体的なシナリオを描写します。例えば、「授業中に何か言いたいときは、手を挙げて、先生が名前を呼んでから話しますよ」といった形で、期待される行動を分かりやすく説明します。
- 視覚支援の利用:各シナリオには、その行動を示すイラストや写真を用いて視覚的にサポートします。これにより、ルールが抽象的な概念ではなく、具体的な行動として子どもたちに認識されやすくなります。
- ポジティブな結果の描写:ルールに従ったときのポジティブな結果もストーリーに含めます。例えば、「手を挙げて話したら、友達が聞いてくれて、先生も喜んでくれるよ」という具体例を挙げ、適切な行動を励ますようにします。
ソーシャルストーリーの活用方法
- 定期的な読み聞かせ:ソーシャルストーリーは、学期の初めや新しいルールが導入されたとき、またはルールを思い出させる必要がある時に、教室で読み聞かせを行います。これにより、子供たちはルールを覚え、守ることの重要性を理解します。
- 定期的な音読:暗記するくらいソーシャルストーリーを音読してもらいます。繰り返し行うことで、子供たちはルールを覚え、守ることの重要性を深く理解します。
- ロールプレイを通じた実践:読み聞かせや音読の後、子供たちにそれぞれのシナリオを実演してもらい、教室の中で実際にルールを体験させます。これは、理解を深めるとともに、実際の行動への適応を助けます。
- 評価とフィードバック:子供たちがルールに従った際には、具体的なフィードバックと賞賛を提供します。これにより、子供たちは自己効力感を高め、ルールを守る動機付けが強化されます。
このように、ソーシャルストーリーを利用して教室のルールを教えることは、特別支援学級の子供たちにとって非常に有効な手法です。視覚的な要素を通じて具体的な行動を学び、ポジティブな結果を連想することで、ルールの遵守が自然なものになります。
このアプローチは、子どもたちが教室のルールをただ聞くのではなく、それを理解し、自分たちの行動にどのように適用できるかがわかります。
ソーシャルストーリーの具体例
「授業中静かにする」というルールに対するソーシャルストーリーは以下のように構成例です。
- ストーリーの冒頭:「授業が始まると、みんなが静かになるよ。これは先生が教えることをよく聞くためだよ。」
- 具体的な行動:「もし友だちと話したくなったら、どうする?授業が終わるのを待って、休み時間に話そうね。」
- 視覚的なサポート:イラストでは、子どもが手を挙げて待っている様子や、授業中に静かに手を組んで座っている様子を示します。
- ポジティブなフィードバック:「授業中に静かにできたら、先生がとても嬉しそうにしてくれるよ。それに、勉強のこともたくさん理解できるから、お家での宿題もすぐに終わるね!」
感情のコントロール
感情のコントロールに関するソーシャルストーリーを用いて、感情的な課題を持つ子どもたちに感情を適切に表現する方法を教えるアプローチは、特別支援学級において非常に価値があります。このストーリーは、子供たちが自分の感情を理解し、適切に対処する技術を学ぶ手助けをします。
ソーシャルストーリーの構成
- 感情の認識:ストーリーは、様々な感情(喜び、悲しみ、怒り、驚きなど)を紹介することから始まります。「今日は、さまざまな感情について学ぼう!」という導入で、感情が普通のものであることを説明します。
- 具体的な感情のシナリオ:「クラスで遊んでいるとき、友だちがうっかり自分のお気に入りの色鉛筆を折ってしまったら、どう感じる?」という具体的な状況を提示します。この状況に対する様々な感情反応(怒り、悲しみ)を掘り下げます。
- 適切な感情表現の方法:感情を感じたときの適切な対処法を教えます。「怒りを感じたときは、大きな声で叫ぶのではなく、深呼吸をして、『私は今、悲しいです』と静かに言おう」といった対応を示します。
- 視覚的サポート:各感情や対応策をイラストで表現します。例えば、怒りを感じたときに深呼吸をしている子どものイラストを使用し、視覚的にも理解を支援します。
- ポジティブなアウトカムの強調:適切な方法で感情を表現すると、友だちや先生からの理解やサポートが得られやすくなるというポジティブな結果を強調します。「正しく感情を伝えると、問題を解決しやすくなるよ」といったメッセージを盛り込みます。
ソーシャルストーリーの利用方法
- 教室での読み聞かせ:教師が学級全体に対して定期的にこのストーリーを読み聞かせ、その後に感情についての意見を出し合います。これにより、子供たちは感情に対する理解を深め、他の子供たちも似たような感情を経験していることを学びます。
- 個別のカウンセリングやサポート:特に感情調整に苦労している子供には、個別にストーリーを用いたサポートを行います。カウンセラーや担任が一対一でセッションを行い、子供が感情を表現する際の具体的な方法を練習します。
このように、感情のコントロールに関するソーシャルストーリーを活用することで、特別支援が必要な子供達の手助けすることができます。
公共の場での行動
公共の場での適切な行動を教えるためのソーシャルストーリーは、特別支援が必要な子供たちにとって非常に役立ちます。このストーリーを通じて、子供たちは図書館やスーパーマーケットなどの公共の場での期待される行動を学びます。
ソーシャルストーリーの構成
- 公共の場の紹介:ストーリーは、公共の場とはどういう場所か、そしてなぜそこで特定の行動が期待されるのかを説明することから始まります。「公共の場所では、みんなが使う場所だから、みんなが気持ちよく過ごせるようにしようね」というメッセージで導入します。
- 具体的なシナリオ:図書館:「図書館では、本を読んだり、勉強したりする場所だから、静かにすることが大切だよ。もし話したいときは、小声で話そうね。」
- 視覚的サポート:図書館で静かに本を読んでいる子供や、スーパーマーケットでカートを慎重に押している家族のイラストを使用します。これにより、子供たちは具体的な行動を視覚的に理解しやすくなります。
- 期待される行動の反復:ソーシャルストーリーの各セクションでは、期待される行動を繰り返し強調し、なぜその行動が重要なのかを説明します。「静かにすることで、みんなが本を楽しめるんだよ」や「カートを注意深く押すことで、事故を防げるんだよ」といった形で、行動の理由も示します。
- ポジティブな結果の強調:適切な行動をとったときのポジティブな結果を強調します。例えば、「図書館で静かにしていると、他の人も君が読書に集中できるように助けてくれるよ」や「スーパーマーケットで周りの人に気をつけてカートを押すと、お母さんも安心して買い物ができるんだ」といったメッセージを含めます。
ソーシャルストーリーの利用方法
- 事前学習:公共の場所に行く前に、このソーシャルストーリーを家庭や学校で何度も読み、子供たちが内容を内面化できるようにします。
- 現地での実践:実際に図書館やスーパーマーケットに行った際は、子供たちが学んだ行動を実践する機会を提供します。これにより、理論と実践の間のギャップを埋め、より効果的な学習が促進されます。
- 繰り返しの訓練:公共の場での行動は、一度の訓練で完璧になるものではないため、定期的にソーシャルストーリーを読み返し、公共の場での行動を再確認します。特に新しい場所や未経験のシチュエーションでは、このストーリーが再び役立つでしょう。
子供たちが期待される行動を示した場合、積極的に賞賛を与えます。これにより、子供たちは適切な行動を取ることの価値を理解し、自信を持って次に活かすことができます。
ソーシャルストーリーで解決!5つの事例【特別支援学級】Q &A
- 「ソーシャルストーリー」とは?
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1991年にアメリカの教育学者キャロル・グレイによって教育技術として開発。 当事者と関係者がお互いに理解し合い、安心できる状況をつくることを目的とし、社会的な状況や行為などを、絵や写真を使い、わかりやすい文章で表現している。
- コミック会話とは?
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コミック会話とは、会話の内容を絵と文字で表現し、視覚的に会話の流れを わかりやすくしたもので、自閉的傾向のある児童生徒のコミュニケーション 学習として使われます。 「視覚化」と「視覚的支援」の理論をもとにしており、 効率よくコミュニケーションについて学ぶことができます。
- SST(ソーシャルスキルトレーニング)とは?
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SSTは対人関係などのスキルを身につけることによって、園や学校などの社会生活を円滑に営んでいくためのプログラムです。 ロールプレイやゲームなどを通して、実際に困った場面の解決方法を練習していくことで、自分の特性に合った適切な振る舞いなどを学んでいくことができます。
- ソーシャルスキルが不足するとどうなる?
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ソーシャルスキルが不足することで、学校生活におけるいじめや不登校、さらには学業成績などにも大きな影響を与えることが指摘されています。 また、子どもの頃のソーシャルスキルの不足によって、非行に走ったり、成人してからの職場での不適応や、またうつ病などの精神面の問題の出現頻度が高くなるという調査報告もなされています。
ソーシャルストーリーおすすめ書籍
より詳しい内容を知りたい方はこちら↓こちらを読むと具体的なイメージができると思います。
文字を苦手とする子供の場合は絵で理解させる「コミック会話」もおすすめです。
ソーシャルストーリーで解決!5つの事例のまとめ
ソーシャルストーリーの成功は、その繰り返しと一貫性に依存します。子供たちが日常的にルールを守る様子を見せることで、その行動が定着します。また、教師や保護者が一貫してこれらのルールを強化し、子供たちがルールを守ったときに正のフィードバックを提供することが重要です。
この方法により、特別支援が必要な子供たちも教室のルールを自然と理解し、守ることが可能となります。これは、彼らがより自立し、学校生活の中で成功を収めるための基盤を築くこととなるでしょう。
ぷーたのX (Twitter):https://twitter.com/aki2000oakp
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